毒親育ちの仕事体験談【ファーストフード接客業】

仕事
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「あんた、どんくさいのよ」

大学2年生になって少し学校に慣れてくるとバイトは短期ではなく、

長期もしたほうが経済的に安定すると思い始めていた。

休みはもちろんめいいっぱい働くつもりだった。

そして私は学生時代にしかできないことをやろうと思っていた。

また、レッスン代を稼ぐためにも働かなければと感じていた。

クラスメイトたちは地方のお金持ちの子が多かったので働らく必要はなく、

みんな学業に没頭していた。

だから私のようなバイト組がバイトに精を出すのが理解できないみたいだった。

でも自分の立場を考えると彼女たちと同じという訳にはいかなかった。

毒母から

「お父さんが倒れたらあんたは学校をやめるんだからね」

と言い渡されていたし、

子ども時代の家族の連続して病気になった経験がいっそう現実味を帯びて

その言葉は私の胸に刺さっていた。

いつもこうしたときに私は絶望感を感じるのだが

でもすぐに「先はわかんないけどがんばろう」と顔を上げる

自分がいた。

だからバイトも前向きに考えようと思った。

クラスメイトの中でTちゃんも働いていたし、

帰る方向が一緒だったのでいつしか同じバイト先で働くことになった。

いわゆるファーストフードの店である。

Tちゃんは自宅近くのファミリーレストランでもバイトしていた。

Tちゃんが1年生のとき、5月病になったときも学校に来ないで

バイトしていたというくらい彼女には接客業があっていた。

それに比べて私はその仕事が苦手だった。

元気に挨拶もしたつもりだし、まじめに働いたつもりだった。

でも仲間内では無視されたり、失笑されていた。

店長はとても気まぐれで機嫌のいいときもあれば、気難しいときもあった。

そして機嫌が悪いとまわりに怒鳴り散らした。

みんなこれによく反応して柔軟に対応していた。

そしてこの下には副店長がいた。

副店長はとっても太っていたが店の中で精神的に一番安定していた。

店長がぴりぴりすると「まあまあ」といってなだめるのが彼の役目だった。

そしてその下で働いている社員で私より年下の青年がいた。

彼は中卒でこの世界に入ったらしく、まじめでとてもやさしかった。

そして人の痛みというものを感じることができるようだった。

だから私が仲間内から無視されていても

この彼だけは普通に話しかけてくれたし、親切にもしてくれた。

そしてこの彼がシフトを組んでいたのでいろいろ私に便宜を図ってくれたと思う。

つまりできる限り、私の苦手な人とは一緒にしないということだ。

この社員3人のほかにHさんというベテランのパートさんがいた。

Hさんはバックヤードを仕切っていて同じパート仲間が3人ほどいた。

若い子たちからも一目置かれていてほとんど毎日シフトに入っていた。

私のバイトは学校が終わってからなので

5時から9時の間で仕事をしていた。

だからHさんとはほとんどあわずにすんだのだが

休日やクリスマスの時期はこの限りではなかった。

あるときHさんにいきなり「あんた、どんくさいのよ」

とはっきりいわれた。

私は「どんくさいって何?」と思ったものの、

鈍いとか垢抜けないという意味だということを感じ取った。

レジを抜けてテーブルをふくふりをした私は思わず涙がこぼれそうになった。

みんなの前で言われたのでさすがの店長も気の毒そうな顔をした。

Hさんは悪びれる風でもなく、さっさと仕事を終えて帰っていった。

その日から私の立場はますます悪くなっていった。

そして社員の青年は他の店に移動することになり、

代わりにやくざ風の男が社員として入ってきた。

この男は妻子がいるのもかかわらず、仕事が長続きしなくてと

初対面の私にこぼしていた。

この男の態度が豹変するのに時間はかからなかった。

次第に私につらく当たり始めたのである。

たぶん彼自身、いままで世間の冷たい風にあたって行き場のない怒りを

社内でつまはじきにされている私に目をつけていじめたのだろう。

こんな環境の中でバイトをするのは嫌だった。

しばらくして私は副店長に電話でシフトは入れないでくださいとお願いした。

自分でもこの仕事は1年近く続けたので頑張ったつもりだった。

そしてもうこれが限界だと思った。

そんなある日、店から電話がかかってきた。

副店長が「どうしても人が足りないから来てくれ」という。

私はもう行きたくなかった。

正直に「やめますからいきません」と伝えた。

でも「困っているから来てくれ」と懇願された

私は意を決して行くことにした。

そこで待ち受けていたのは冷たい視線とあざけりだけだった。

仕事は仕事だと割り切ってシフトに入ったものの、

あからさまに同僚が私の悪口をいい、

私を呼んだ副店長も困った顔をしていた。

やくざ風の男は私が仕事を終え、

階段を上がっている途中のところまで追いかけてきて

「店長に対してお前は恩知らずの人間だ」

と怒鳴りながら叫び、捨て台詞のように私を攻め立てた。

私はその声に耳をふさいでロッカーに駆け込んだ。

そしてここに来た事をひどく後悔した。

「もうここには二度と戻ってくるまい」

と私は固く心に決めて寒々しいロッカールームを後にした。

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