子どもが「ほかの普通の子とはちょっと違うかもしれない」と感じ始めたころ、私はどうにかしてこの不安を解決したくて、児童相談所に足を運ぶことにしました。
当時の私にとって、児童相談所といえば「親が虐待を通報されて、子どもが保護される場所」というイメージでした。 「自分は絶対に子どもにそんなことはしない。母のようにはならない」と思っていたからこそ、本当は足を踏み入れたくない場所でした。それなのに、別の問題を抱えてここの門をたたくことになるなんて、思ってもみませんでした。
電話で予約をとり、2週間後に訪問すると、担当してくれたのはとても思いやりに満ちた優しそうな方でした。私の話を包み込むように、寄り添うように聞いてくれたあと、その相談員さんはこう言いました。
「臨床心理士の先生をご紹介しますから、一度知能検査を受けてみませんか? 検査は女性の先生の方が、お子さんも安心するかと思います。WISC(ウィスク)という検査で、お子さんのIQがわかるんです」
もしかしたら、何か他に原因があるのだろうか……? 児童相談所の相談員から知能検査の話を聞いたとき、なぜか嫌な予感がしました。 でも、上の子は中学生でいずれ受験を控え、下の子も小学6年生で中学に上がる前に何とか解決策がほしい。私はわらにもすがる思いで、子どもたちに知能検査を受けさせることにしました。
相談員にお願いし、上の子には男性の臨床心理士を、下の子には女性の臨床心理士をそれぞれ紹介してもらいました。 WISCの検査は上の子と下の子で別々の日に行い、結果もそれぞれ別に聞きに行くというスタイルでした。
そもそも、私がここまで追い詰められていたのはなぜか。 上の子は中学生なのに、まったく勉強しなかったからです。 はじめは通信教育をさせていましたが、あまりにもひどい成績なので、途中で個別指導の塾に切り替えました。しかしその塾も、半年ほど通ったところで「勉強せず、努力していない」という理由で塾長に匙を投げられ、やめさせられてしまいました。
その後、中2になるタイミングで新しい塾を必死に探しましたが、夫から「勉強しないなら無駄だ」と言われ、その塾も夏休み前にやめることに。さらにその後、個人でやっているような数学塾に通わせたものの、受験が本格的に迫ってきたため、結果的に3つ目の受験対策塾に入ることになりました。
私が児童相談所に行ったのは、ちょうどそんな最中のことでした。 「本当になんで勉強しないんだろう、努力しないんだろう」と、母親としてずっと悩んでいましたが、「もしかしたら、何か他に原因があるのでは」と感じたのです。 学校のカウンセラーにも相談に行きましたが、不登校というわけでもなく、他の面ではいたって普通に見えるため取り合ってもらえず、最終的に児童相談所を頼るに至りました。
AC(アダルトチルドレン)の悩みのときもそうでしたが、子育て支援センターも、保健所も、学校のカウンセラーも、こちらがどれだけ必死に訴えても、本当の意味で親身になってくれることはありませんでした。
上の子の検査と、男性臨床心理士の対応
上の子を検査した男性の臨床心理士は、ヒゲをはやした穏やかな人でした。 結果の説明では、次のように言われました。
「IQは普通に属しますが、いわゆるグレーゾーンにもかかっています。でも、普通の子ですから大丈夫ですよ」
なんとなく予感はしていたものの、やはりショックでした。ただ、このとき「下の子も同じような結果が出るかもしれない」と、心構えだけはすることができました。
下の子の検査と、冷たかった女性臨床心理士
別の日、下の子を検査した女性の臨床心理士は、とてもキツイ印象の人でした。 間に優しい相談員が入ってくれたものの、こちらの意見を一切聞き入れようとしない態度でした。
具体的に言われたのは、次のような言葉です。
「この子はグレーゾーンで、勉強してもできません。ですから、不登校にならず『学校に通어てくれさえすればいいのよ』という気持ちで中学生活を送らせてあげてください」 「なんなら、食事を作るとか、介護をするとか、いくらでも世の中の役に立ちますから、そういう方面に進めばいいんじゃないですか」
あまりの言葉に、ショックで言葉が出ませんでした。 その後、市が運営する「言葉が遅い子のための放課後学級」に相談に行った際、そこの女性臨床心理士にこのときの出来事を話すと、その方が涙を流してこう言ってくれたのです。
「お母さん、おつらい思いをされましたね。同じ臨床心理士として恥ずかしいです。同じ臨床心理士として謝ります。ごめんなさいね」
人によって、ここまで対応が違うものなのか……。複雑な気持ちになると同時に、私の不安はますます膨らんでいきました。
余計に募る不安と、児童相談所への疑問
結局、下の子を担当した女性の臨床心理士は、相談相手にもならない人でした。 優しかった相談員も困った顔をするばかりで、組織の立場からその臨床心理士をかばうような様子でした。
最後には、「児童相談所は検査をするところであって、これ以上は相談に乗れません。県の教育相談に行ってください。何なら自費で診療を受けたらどうですか? うちに来ている心療内科の先生を紹介します」と言われました。
ショックで打ちのめされている私に対し、最初はやさしく包み込んでくれたはずの相談員までもが、最后にはソワソワした様子で「早く立ち去ってほしい」というのがありありと伝わってきました。
当時の下の子は小学6年生。漢字があまり書けず、カタカナもあやふやで、鏡文字を書くなど、中学生になるにはあまりにも不安な問題を抱えていました。だからこそ、助けを求めて相談に行ったのです。
それなのに、児童相談所に行ったことで、かえって不安が募る結果となってしまいました。 本来ならばサポートしてくれるべき公的な機関が、どうしてそんな冷たい態度をとれるのか、とても不思議でたまりませんでした。 世間で「児童虐待の発見が遅れた」というニュースを見るたびに、私は、そうした児童相談所の硬直した体質や姿勢そのものに大きな問題があるのではないかと感じずにはいられませんでした。
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